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2022年(令和4年)7月、厚生労働省は「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、企業に対して「副業・兼業を容認しているか、その条件は何か」を自社ホームページ等で公表するよう求めました。これにより、これまで曖昧だった各社の副業ルールが可視化され、会社員が堂々と複数の収入源やキャリアを築ける環境整備が加速しています。本記事では、このガイドライン改定の具体的な内容や企業側の動向を解説しつつ、労働市場の変化の中で私たちがどのように個人のスキルを活かしていくべきかを独自の視点から考察します。
2022年7月改定:厚労省「副業・兼業ガイドライン」の具体的内容とは?
これまで「自社の就業規則でこっそり禁止する」という慣例がまかり通っていた日本の副業事情に、国が明確なメスを入れたのが今回の改定です。
いつ、誰が、何を、どう変えたのか。まずは、このニュースの核となる具体的な事実関係から整理していきましょう。
令和4年7月8日の改定で企業に「情報の公表」を強く推奨
厚生労働省は2022年(令和4年)7月8日、多様な働き方を後押しする目的で「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改定し、企業向けのQ&Aを新たに追加・更新しました。
この改定の最大のポイントは、企業に対して「従業員の副業・兼業を許容しているか否か」、そして「許容している場合はどのような条件を設けているか」という情報を、自社のホームページなどで社内外に公表するよう強く求めた点です。
これは法的な罰則を伴う「義務」ではなく「推奨」という位置づけですが、国が公式なガイドラインとして情報開示を促したことの意義は非常に大きいと言えます。
企業に求められた具体的な公表要件
ガイドライン改定に伴い、企業が公表を求められている具体的な項目は以下の通りです。
- 副業・兼業を許容しているか否かの明示(全面容認、条件付き容認、全面禁止など)
- 条件付きで容認する場合の詳細な条件(同業他社は不可、事前の申請・許可が必要、労働時間の上限設定など)
- 現在の従業員の副業・兼業の実施状況(実際に副業を行っている人数や割合など)
これまで多くの企業では、就業規則の奥深くに「会社の許可なく他の業務に従事してはならない」といった曖昧な文言が書かれているだけで、実態としてどこまでが許されるのかが非常に不透明でした。
今回の改定によって、企業側は「なんとなく禁止」というスタンスを維持することが難しくなり、採用市場の求職者や投資家に対して、自社の労働環境の透明性を示すことが実質的に求められるようになったのです。
人材獲得競争における「踏み絵」としての意味合い
この公表要件は、今後の人材獲得競争において企業のリトマス試験紙になると考えられます。
特に20代〜30代の若手層や、柔軟な働き方を求める優秀な人材は、企業選びの条件として「副業ができるかどうか」を重視する傾向が強まっています。
ホームページ上で「原則禁止」と公表し続ける企業は、「多様な働き方を認めない古い体質の企業」というレッテルを貼られかねません。そのため、多くの企業がこれを機に就業規則を見直し、条件付きであっても副業を解禁する方向へと舵を切り始めているのが現在の状況です。
なぜ今、ルールの透明化が必要なのか?改定の背景とこれまでの経緯
そもそも、なぜ2022年のタイミングでガイドラインが改定され、公表が求められるようになったのでしょうか。
そこには、過去の働き方改革関連法案の施行から現在に至るまでの、国と企業の「水面下の綱引き」がありました。
2018年の「副業元年」とモデル就業規則の変更
時計の針を少し戻すと、日本における副業推進の大きなターニングポイントは2018年(平成30年)にありました。この年は「副業元年」とも呼ばれています。
この年、厚生労働省は企業が就業規則を作成する際の雛形となる「モデル就業規則」を大幅に改定しました。
それまで記載されていた「許可なく他の会社等の業務に従事しないこと」という禁止規定を削除し、新たに「労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる」という「原則容認」の規定へと転換したのです。
「解禁したくない企業」の壁と実態の乖離
しかし、国が「原則容認」の旗を振ったにもかかわらず、2018年以降も多くの企業は副業解禁に消極的でした。
本音では「自社の仕事だけに専念してほしい」「労働時間の管理が煩雑になる」といった懸念から、独自の就業規則で引き続き副業を禁止する企業が後を絶たなかったのです。
結果として、政府が推進する働き方改革の理想と、企業現場の保守的な実態との間に大きな乖離が生まれてしまいました。
膠着状態を打破するための「可視化」アプローチ
この膠着状態を打破し、企業の背中をさらに強く押すために打ち出されたのが、今回の「2022年7月のガイドライン改定」です。
国は強制的に法律で縛るのではなく、「あなたの会社のルールを世間に公表してください」と促すことで、企業側に自主的なルール見直しを迫りました。
社会全体の目が「多様な働き方」に向いている中で情報開示を求めることは、企業に「社会の変化に適応できているか」を問う強力なプレッシャーとなっています。

データが示す労働市場の変化と女性の副業参入の現状
こうした国を挙げた後押しを受け、労働市場全体で副業を始める人は確実に増加しています。
ここでは、単なる印象論ではなく、公的な統計データからその実態を読み解いてみましょう。
総務省「就業構造基本調査」に見る副業者の増加
総務省が5年ごとに実施している大規模な統計「就業構造基本調査」の令和4年(2022年)の速報データによると、日本の労働市場における大きな変化が明確に表れています。
有業者(仕事をしている人)のうち、実際に副業を持っている人の数は約332万人に達し、過去最多を記録しました。また、副業を希望しているもののまだ始めていない「副業希望者」の数も増加傾向にあります。
この数字は、会社員としての本業を持ちながら、別の時間で別の仕事を持つという働き方が、一部の特別な人だけのものではなく、ごく一般的な選択肢になりつつあることを裏付けています。
マクロ経済的要因と女性の働き方の多様化
副業者が増加している背景には、制度面の後押しだけでなく、厳しいマクロ経済的な要因も絡んでいます。
長引く物価高騰と実質賃金の低下により、「本業の収入だけでは将来が不安」「生活水準を維持するために別の収入源が必要」という切実な理由から副業を始める人が増えているのも事実です。
特に女性の労働市場においては、育児や介護といったライフイベントと仕事の両立という課題が常に存在します。
リモートワークの普及と相まって、在宅で時間を柔軟にコントロールしながらできる副業(WEBライター、オンラインアシスタント、スキル販売など)に参入する女性が増加しているのは、この時代背景とテクノロジーの進化が見事に合致した結果と言えるでしょう。
企業側が抱える「副業解禁」への課題と本音
労働者にとっては喜ばしい副業解禁ですが、雇用する企業側から見れば、依然として多くの課題やリスクが残されています。
企業が手放しで副業を歓迎できない理由(人事労務上のリアルな壁)を知ることは、私たちが安全に副業を行う上でも重要です。
労働基準法における「労働時間の通算管理」の壁
企業がもっとも頭を悩ませているのが、労働基準法に基づく「労働時間の通算」というルールです。
現在の法律では、本業と副業の労働時間は通算して計算され、法定労働時間(原則1日8時間、週40時間)を超える場合は、後から労働契約を結んだ企業(またはその日に後から働いた企業)が割増賃金(残業代)を支払う義務を負う可能性があります。
例えば、本業で1日8時間働いた後、アルバイトとして副業先で2時間働いた場合、その2時間はすべて割増賃金の対象となります。
企業側からすれば、従業員が社外で何時間働いているかを正確に把握することは非常に困難であり、意図せず法律違反を犯してしまうリスクを抱えることになります。この労働時間管理の煩雑さが、企業が副業解禁に二の足を踏む最大の要因となっています。
※このため、企業に雇用されない形での副業(フリーランスとしての業務委託や、自営業・個人事業主としての活動)であれば労働時間の通算対象外となるため、企業側としては業務委託型の副業のみを容認するケースも増えています。
競業避止義務と情報漏洩リスクへの警戒
もうひとつの大きな懸念が、本業の利益を不当に害する「競業避止義務違反」や、社外秘の情報が漏れる「情報漏洩リスク」です。
自社で培ったノウハウや顧客リストを使って同業他社で副業を行われたり、疲労の蓄積によって本業のパフォーマンスが低下したりすることは、企業として絶対に避けなければなりません。
そのため、ガイドライン改定を受けて副業を解禁した企業であっても、「同業他社での業務は不可」「深夜労働を伴うものは不可」「事前に業務内容を申告し許可を得ること」といった厳格な条件を設けるのが一般的となっています。
個人が安全に副業を始めるための必須確認事項(3つのルール)
国が推進し、企業がルールを公表し始めたとはいえ、個人の都合で無軌道に副業を始めて良いわけではありません。
トラブルを防ぎ、自分自身の身を守るために、以下の3つのルールは必ず守るようにしてください。
1. 就業規則の細則(許可制か届出制か)を必ず確認する
「国がガイドラインを変えたから大丈夫」「ニュースで解禁と言っていたから」という自己判断で副業を始めるのは非常に危険です。
まずは、あなた自身の勤め先の最新の就業規則を必ず確認してください。
「許可制(会社が個別に審査して承認する)」なのか、「届出制(申告するだけでよい)」なのか。あるいは「個人事業主としての活動のみ可」といった細かな条件が設定されているはずです。無断で副業を行い、後から本業の業務に支障が出たと判断された場合、懲戒処分の対象となる可能性もあります。
2. 税金の知識と「住民税の普通徴収」の限界を知る
副業で得た所得(売上から経費を引いた儲け)が年間20万円を超えた場合、原則として確定申告が必要です。
よくネット上の情報で、「確定申告の際に、住民税の納付方法を『普通徴収(自分で直接納付する)』にチェックすれば会社に副業がバレない」という裏技のように語られることがあります。
しかし、これは決して絶対的な安全策ではありません。
現在、多くの自治体が税務処理の効率化と徴収漏れを防ぐため、給与所得以外の副業分も含めて、すべての住民税を本業の会社からの「特別徴収(給与天引き)」に一本化する方針を強く推進しています。そのため、普通徴収を選んだつもりでも、自治体側の処理で合算されて本業の会社に通知がいき、経理担当者に「給与以外の収入がある」と気づかれるケースが頻発しています。不確実な情報に頼る隠密行動は避け、堂々と申告できる範囲で行うのが基本です。
3. 「簡単・高額」を謳う詐欺的プラットフォームを避ける
副業解禁の波に乗じて、初心者を狙った悪質な詐欺も増加しています。
「1日10分のスマホ作業で月収30万円」「誰でも確実に稼げるマニュアル」といった誇大広告には絶対に手を出してはいけません。初期費用として高額な情報商材を買わせたり、怪しいシステムの契約を迫ったりする手口が横行しています。
仕事を探す際は、クラウドワークスやランサーズ、ココナラといった、運営元が上場企業であり、第三者の監視の目が行き届いている知名度の高い大手の仲介プラットフォームを利用し、安全第一を心がけましょう。

西野真希の考察:ガイドライン改定が促す「キャリア自律」と個人の強みの再発見
ここまで、2022年7月のガイドライン改定という法制度・労働市場の変化と、企業側が抱える人事労務の壁について解説してきました。
本記事の筆者であり、スキルシェア市場で長年「教える副業」を始める方々の伴走支援をしてきた私の立場から、この一連のニュースが私たち個人にとって何を意味しているのかを考察したいと思います。
企業という「看板」に依存する時代の終焉
厚生労働省がガイドラインを改定し、企業に副業ルールの公表を迫った背景には、「もう国や企業だけでは、国民の終身雇用と右肩上がりの給与を約束しきれない」という厳しい現実があります。
企業側も、労働時間の通算管理や情報漏洩といったリスクを嫌がりながらも、最終的には副業を容認せざるを得なくなっています。これは、会社が「従業員の面倒を一生見る」という昭和・平成型のパッケージ契約が崩壊し、個人が自らの責任でキャリアを切り拓く「キャリア自律」の時代へと完全に移行したことを示しています。
冷たく聞こえるかもしれませんが、これは同時に「企業という看板に依存せず、個人のスキルが市場で直接評価される時代」の幕開けでもあります。
「普通の経験」が市場価値を持つスキルシェアの台頭
「キャリア自律」や「個人のスキル」と言われると、特に40代、50代の女性の多くは「私には人に誇れるような国家資格も、ITスキルもない」と萎縮してしまいがちです。
私がこれまで多くの方を支援してきた中でも、「私のこんな経験がお金になるわけがない」という自己評価の低さに直面することは少なくありませんでした。
しかし、労働市場におけるマクロな変化は、必ずしもプログラミングや最先端のAI技術だけを求めているわけではありません。
例えば、近年急成長している「ココナラ」や「ストアカ」といったスキルシェアの市場では、驚くほどパーソナルで日常的な経験が活発に取引されています。
「未経験からの転職活動の相談に乗ります」
「HSP(繊細さん)の仕事の悩みをじっくり聞きます」
「子どもの反抗期に疲れたお母さんの愚痴を聞きます」
「週末の作り置きおかずの献立を一緒に考えます」
これらは、企業の人事部から見れば「履歴書に書けないスキル」かもしれません。しかし、悩みを抱えている特定の個人にとっては、専門家の堅苦しいアドバイスよりも、同じ痛みを経験した生身の人間の「リアルな経験談」や「寄り添う力」の方が、お金を払ってでも手に入れたい圧倒的な価値を持つのです。
あなたの「当たり前」は、誰かの「知りたい」である
今回のガイドライン改定がもたらした最大の恩恵は、私たちが会社の中の「〇〇部門の担当者」という肩書を一旦横に置き、「私という個人の経験に、どんな価値があるのか」を見つめ直す機会を与えてくれたことだと私は考えます。
AI(人工知能)が急速に進化し、定型的な事務作業や情報整理が次々と機械に代替されていくこれからの時代。最後まで価値を失わないのは、あなたの人生経験に裏打ちされた独自の視点と、人対人の温かいコミュニケーション能力です。
あなたにとっては息を吸うように「当たり前」にこなしてきた家事の工夫、職場で人間関係を円滑にしてきた気遣い、あるいは大きな失敗から立ち直った経験。そのすべてが、他の誰かにとっては喉から手が出るほど知りたい「ダイヤモンドの原石」になり得ます。
社会のルールが透明化され、誰もが複数のわらじを履ける時代になった今こそ、自分の中に眠るその原石に気づき、磨きをかけていく絶好のタイミングだと言えるでしょう。
まとめ
本記事では、2022年7月に改定された厚労省の「副業・兼業ガイドライン」を軸に、労働市場の最新動向と私たちがとるべき対応策について解説しました。
記事の重要なポイントをまとめます。
- ガイドライン改定の核心:2022年7月、厚労省は企業に対して「副業の容認状況やその条件」を自社サイト等で公表するよう強く推奨した。
- 改定の背景:2018年の「副業元年」以降も企業側の副業禁止の壁が厚かったため、ルールの透明化(公表要請)によって企業の意識改革を迫った。
- 労働市場の現実:総務省のデータでは副業者は約332万人と過去最多に。物価高や働き方の多様化により、女性の在宅副業参入も増加している。
- 企業側の課題:労働時間の通算管理による割増賃金のリスクや、情報漏洩の懸念が、手放しの副業解禁を阻む要因となっている。
- 個人の対応策:就業規則を必ず確認し、住民税の仕組みを正しく理解し、詐欺案件を避けて安全なプラットフォームを選ぶこと。
- 考察:企業依存の時代が終わり、個人の「当たり前の経験」や「寄り添う力」が、スキルシェア市場などで直接評価される時代が到来している。
国がルールを整え、企業が重い腰を上げ始めた今、次に動くのは働き手である私たち自身です。
最初から完璧なビジネスを立ち上げる必要はありません。まずは自分が「得意なこと」「苦なくできること」を紙に書き出してみる。そんな小さな自己分析から、あなたの新しいキャリアは確実に広がり始めます。
よくある質問
Q. 2022年のガイドライン改定で、企業は「副業を許可」することが法律で義務付けられたのですか?
いいえ、法律による義務ではありません。今回の改定はあくまで「ガイドライン(指針)」であり、自社の副業に関するルールを「公表すること」を強く推奨したものです。しかし、国が明確な指針を示し、多くの企業が公表を始めていることで、「合理的な理由なく禁止し続けることは難しい」という社会的なプレッシャーが働いており、実質的な解禁の後押しとなっています。
Q. 会社の就業規則を確認したところ、「原則禁止」のままでした。隠れて始めても大丈夫でしょうか?
絶対に避けてください。就業規則で禁止されている状態で無断で副業を行い、それが発覚した場合、減給や懲戒処分などの重いペナルティを科されるリスクがあります。どうしても始めたい場合は、人事部や上司に「どのような条件なら(例えば、本業の競合にならない週末の数時間など)例外として認められるか」を率直に相談することをおすすめします。
Q. 「スキルシェア」で自分の経験を売るといっても、何から始めればいいかわかりません。
まずは、「ココナラ」などの大手プラットフォームに登録し、他の人がどのようなサービスを出品しているのかを観察することから始めてみましょう。「こんな些細な相談でもお金になるのか」「この人のジャンルなら自分にもできそうだ」という気づきがたくさんあるはずです。自分の日常の延長線上にあるものから、小さくテスト出品してみるのが最も安全で効果的な第一歩です。
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— 西野 真希


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